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  生産製造  
   
          景気が回復傾向にあるとはいえ、日本の製造業をとりまく環境は厳しいままだ。旧来の大量生産による売上増や市場シェア拡大による収益確保が難しくなって久しい。そこで新たに脚光を浴びはじめたのがPLM(Product Lifecycle Management)だ。

        では、PLMとは何か。直訳すると「製品のライフサイクルを管理すること」となるが、これではわかったようでわからない。「顧客の要求仕様と製品仕様のバランスをとりながら組織横断型で製品仕様をマネジメントすること」と言う定義です。

        企業は、顧客ニーズを満たす製品を市場にタイミングよく投入してこそ利益を得る。顧客ニーズから始まる一連のデマンドチェーン(顧客を起点とした需要情報の流れ)を、製品仕様データでマネジメントしていく手法がPLMだ。統一された製品仕様データを設計や生産などすべての業務で利用することで、顧客ニーズをとらえた製品をタイミングよく市場に投入できる。

        ユーザーやベンダー各社がそれぞれのPLMを掲げるのはよいが、売れる製品を作って収益を向上させるという目的を失ってはいけない。PLMは、CADの情報を設計以降の業務全般でも活用しようとする単純な話でもないし、設計情報と生産情報をつないだだけで達成できるものでもない。

        PLMは部門や立場によって意味が違ってくる。経営の視点である「企業戦略」、設計から製造―メンテナンス―廃棄までの現場視点である「業務」、システム部門のITからの視点である「システム」。これら3つの視点から見ることが重要だ。

        日本の製造業界における戦略の主流は、戦後のインフレ経済下では業務プロセス効率化を目的としたプロセス効率化を目的としたプロセス・イノベーション(業務改革)にあった。しかし20世紀末にデフレ経済に移行してからは、「儲かる製品やサービスをつくる」ために、製品の高品質化(Q=Quality)、コスト競争力(C=Cost)、短納期開発(D=Delivery)を目的として製品の構造・構成をマネジメントするプロダクト・イノベーション(製品改革)に重点が移ってきた。そして、製品の全ライフサイクル(設計・開発~製造~メンテナンス~廃棄)に至るマネジメントを目的としたPLMが重要となってきたのだ。

        PLMを実現する――製品のQCDや構成をマネジメントする――には、製品のマスター情報である部品表(BOM)の再構築あるいは新規導入が必要だ。部品の構成や部品自体の詳細な検討によって、製品のQCDが作りこまれる。

        ではなぜ今BOMシステムを再構築しなければならないかというと、旧来のBOMシステムがこの目的のために構築されてこなかったからだ。何を作っても売れる時代には、BOMはMRP(所要量展開)や購買管理を目的としていた。製品をつくる上での部品の数量等の調整つまり、製造BOM(M-BOM)がメインのBOMであった。しかし、PLMを目的として製品の仕様情報をマネジメントしようとすると従来のBOMシステムでは情報不足に陥り、加えて製品のQCDを検討/シミュレーションする仕組みになっていない。そこでPLM実現を目指してBOMを再構築する必要が出てきた。

        デフレ経済環境が進んだ1995年以降、このPLM実現を目的としたBOMの再構築が日本の製造業界において大きなテーマになっており、その規模はこれまでのERPやSCMを凌ぐものになりつつある。

        日本の製造業各社は生き残りをかけ、日々さまざまな改革プロジェクトに取り組んでいる。単なるコスト削減やリストラなどは延命策であり、「売れる製品」が出せなければ継続的な収益向上は見込めない。

        デフレ経済環境下でも売れるものは売れる。買う人がいて、必要なものがあって、売れている製品がある以上、メーカーは「売れる製品」をつくる努力をするべきだ。では、「売れる製品」をつくり出す業務改革やIT導入プロジェクトはどうあるべきか。

        製造業がまず認識しておかなくてはならないのが、製品の価値は「顧客の感情によって決まる」という事実である。「欲しい時」に、「欲しい機能」の製品が顧客の「買ってもいい」限界価格でしか売れないのだ。

        ここで顧客に売っているモノは、実は製品ではなく「機能」、すなわち「仕様」であることを改めて認識する必要がある。

        たとえばトラックが欲しい人は、トラックを駐車場に置いて飾っておくわけではない。どんな重さや大きさの荷物を運べるか、どれくらいの燃費で運べるか、車道を走ったり車庫にしまうのにどれくらいの大きさが最適かなど、その仕様をじっくり検討するはずだ。仕様の構成ではなく「05年型トラックTR-5004-3」などのようにシリアルナンバーをつけて製品管理をしているのは、売る側の論理だ。高度成長期のモノ不足の時代には、市場で販売しているトラックを買うしかなかったが、今は顧客が自分にあった仕様を中心にじっくりきめ細かく検討して購入する時代なのだ。

        「仕様を売る」意識を持たずにモノづくりを続けてしまうと、顧客が欲しいと思わない過度の仕様の製品を作ってしまい、顧客が要求する売価に対して原価割れが起こるなどの問題が生じてしまう。オーバースペックでもアンダースペックでもだめなのだ。「顧客の声を製品に」「顧客満足度を向上する」ことを本気で目指すならば、仕様情報を全社で活用しスペックとコストのトレードオフの関係をマネジメントする仕組みを確立する必要がある。

        顧客の声を仕様に反映する施策として、VOC(ヴォイス・オブ・カスタマー:顧客満足度調査)などを行っている企業も多い。しかし製品の仕様体系や基準なしに調査しても、多くの情報から抽出しただけの単純な分析データにしかならず、顧客の製品仕様に対する本当のニーズと乖離してしまう。声の大きい販売会社の情報しか届かないため、顧客のニーズが部分的にしか反映されず、片寄った製品仕様施策になってしまう可能性も高い。

        売れる製品をつくるには、仕様を管理するとともに、顧客が欲しいうちに製品を市場に投入しなくてはならない。欲しい人は、欲しい時には高い金額を払ってでも欲しいと思っているが、その心理的満足期間が過ぎてしまうと、半額でも買わなくなる(筆者はこれをカスタマー・サティスファクション半減期と呼び、その期間を約2週間と考えている)。

        一方、コンシューマー製品でない産業機械などでも、顧客の要求に対して、迅速に見積と納期回答が行え、短いリードタイムで納品できることが重要となる。顧客はすぐに買って仕事を始め利益を得たいのだから、その要求に迅速に対応できなければ競合他社製品に流れてしまう。製品を作って提供するだけではなく買い手の利益を考えることが重要だ。

        売れる製品をタイムリーに市場投入するには、設計開発から製造までのトータル・リードタイムを短縮する必要がある。設計開発部門が業務のプロセスを効率化しただけでは実現しない。市場に投入する予定の製品が目標原価に収まらなくてなかなか投入できなかったり、顧客からの見積に合わなくて受注できなかったりする。これはプロセスの問題ではなく、原価企画や売価設定の方針の問題だ。

        原価設定と仕様策定が混乱している製品開発も多い。最後のDR(デザインレビュー)段階で前に進めずに設計をし直したりして、設計開発段階で多くの時間を費やしてしまう。こんなことをしているうちに、売れる製品の投入時期を逃し、売れるはずのものも売れなくなってしまうのだ。

        プロセス自体をPDMやCRMなどで効率化しても、人件費が削減できる程度だ。実践しなくてはならないのは、製品開発の上流段階からあらゆる部門が協力して、顧客や市場の声をできるだけ早く仕様に反映させる仕組みを確立することだ。

        昨今、各メーカーは「売れる製品」づくりのために、仕様管理を目的としたさまざまなシステムを構築している。そのため、PDM、PLMシステムの導入がポストSCMとしてブームとなっている。しかし、成功したとは言いにくい。それどころかインフラ整備ができても、「売れる製品」をますます作り出せない事態に陥っているのはなぜか。

        それは、プロジェクトの目的が、単にエンジニアリングデータ(顧客が求める製品の仕様データではなく、技術者本位の技術データ)をITで交換するに過ぎないからだ。そして、このITはコンカレント・エンジニアリング(同時並行開発)や設計開発の効率化、つまりは業務効率化のためのツールにしかならない。売れる製品をつくるという目標の達成には貢献できないわけだ。

        日本ではITを単なる業務効率化の仕組みにしかできない場合が多い。だからITの投資対効果の議論はいつも何人減らせるかということになりがちである。製造ラインをかつてのベルトコンベアーシステムからセル生産に切り替え、市場の変化に対応した柔軟な生産プロセスに移行している企業も多い。人間が直接対応してほうが柔軟でよいという反省もある。ITで業務を武装しても、市場の変化に対応できなければ、ITによる業務固定化自体がベルトコンベアー化してしまう危険性が高い。これでは、ITがモノづくり改革や柔軟性を妨げる原因になってしまう。

        本来複雑かつ曖昧な設計開発の業務開発プロセス上にワークフローシステムを構築した場合、製品切替による業務変更が発生すると、ITのメンテナンス作業は膨大になる。仕様変更にまつわる課題は、上流のエンジニアリングデータの組織的活用はもとより、製造部門の仕事にも影響が及ぶ。ITで支えるのは業務プロセスではない。必要なのは、市場の変化に対して「売れる製品」を作るために製品に関するあらゆる情報をマネジメントして意思決定の自由度を高めることなのだ。

        つい十数年前までは、企業の改革といえば業務プロセスや組織論に偏った戦略論が主流だった。製造業はシェアをとるために販社政策を展開し、生産性をあげるため大型設備投資による量産効果を狙った。シェアによって売上が決まり、生産性向上によるコスト低減で利益向上が見込めた。人件費を抑制し利益を確保するため、中国を始めとしたアジア諸国に生産拠点を展開した。これらが1990年代初めまでの経営者がとるマクロ経営の姿であった。

        しかし、繰り返しになるが、昨今ではシェアをとったとしても小ロット化で利益率は上がらないし、製品のライフサイクル短期化により悪くすると流通在庫となって需給のバランスすらコントロールできなくなる。次に売れる新製品を市場に投入しても既存製品の在庫が足を引っ張って市場のカニバライゼーション(共食い)が起こる。売れ筋の製品でさえ、製品のライフサイクル短期化によりすぐ売れなくなる。苦労してシェアを拡大しても、すぐに売れなくなってしまうのだ。利益確保のためにコスト削減を狙っても、新製品を投入できなければ、売価はどんどん下がってしまい、利益を確保できない。さらに悪いことに、コスト低減努力が全体的な製品の低価格化を誘発してしまい、全製品が儲からない構造を生んでしまうこともある。

        何が売れるか予想しにくい時代に売れる製品を作るには、製品の仕様とコストをいかに迅速かつ柔軟にコントロールするかが重要だ。そのためには、旧来の組織論を中心としたマクロな視点ではなく、製品をマネジメントするミクロな経営管理の視点が必要となる。最近の製造業の勝ち組企業のトップは、自ら製品を手にして経営判断を下している。トップが製品のスペックをマネジメントすることこそが重要な経営判断なのだ。これが経営の製品に対する戦略的自由度につながる。戦略的自由度とは、市場の変化に応じて、製品のQCDを自由にコントロールすることができる力だ。

        一方、継続的に売れる製品を市場投入できる仕組みも考える必要がある。毎回、製品のライフサイクルに合わせて製品をすべて入れ替えるのではなく、製品の共通の仕様部分は製品のプラットフォームとして活用し、製品の付加価値を決める仕様をオプションとしてそのオプション部分を入れ替えて、新しいニーズに対応することを考える。このように製品の仕様を中心にミクロにマネジメントする手法が重要だ。そのためには製品のプラットフォームとオプションの考え方が重要となる

        PLMは、製造業のシステムとしてどのような位置づけにあるのか。ここでは、PLMをめぐるフレームワークの話をする。SCM、CRM、PDMも含めたPLMの関係を考えてみたい。

        SCMのゴールは、「製品を確実にお届けする」ということ。すなわち早すぎず遅すぎず、顧客が欲しいときに欲しいタイミングでモノを納入しなくてはならない。需給の調整と効率化が主たる目的であり、ローコストオペレーションが目的だ。一方、CRMのゴールは「繰り返し発注をいただく」、すなわちリピート率上げることを目指す顧客と案件の管理が目的となる。

        市場の気持ちを製品化して売れる製品を作り、すぐ確実にお届けして、さらに繰り返し発注をいただいて、また市場の気持ちを製品にする。これを回して回転数が高まっていくと企業のキャッシュフローが増大する。

        このサイクルの中で重要な「市場の気持ちを商品に」とは、どんな仕組みなのか? これまでは、PDM(Product Data Management=製品情報管理)といわれる世界がその役割を担っていると考えられていた。しかし、実際は既存のPDMでは不十分だ。既存のPDMは成果物管理として設計開発者の支援ツールでしかなく、製品の全ライフサイクルを管理するまでには至っていない。売れる製品仕様をマネジメントするには、顧客の要求仕様、コスト、納期が一体化した情報のマネジメントが必要なのだ。

        成果物管理と製品構成管理は大きく違うものであることを認識する必要がある。PDMは、歴史的な背景からCADなどの上流の設計や製造のエンジニアリング情報の管理にとどまり、ツールとして設計開発者支援のために構築されてきた。これに対して製品の全ライフサイクルを管理する新しい概念が必要となって、PLMが注目されてきた。

        PLMの世界とSCM・CRMの世界を比べてみると、図1-04のように「モノ」「つくり」に区別することができる。SCMとCRMは「つくり」の世界が中心で、どちらもプロセス・イノベーション(業務改革)が主たる目的だ。一方、プロダクト・イノベーションで売れる製品を開発して利益を上げる仕組みを目指すのであれば、「モノ」をサポートする世界を積極的に構築する必要がある。つまりPLMが重要ということになる。

        
具体的にPLMとPDM・SCM・CRM・CSMとの違いおよび各ソリューションとの関係を説明する。

        
①PDM(Product Data Management)との関係

        PDMはCAD・CAM・CAEベンダー(CADソフト開発・販売会社)が中心となって、設計開発のエンジニアリング情報を成果物として管理する仕組みを売り込むことで発展した。CADベンダーが次々とPDM関連製品を市場に投入し、PDMがPLMに対応したものであるとして導入されてきたことが多い。

        しかしPDMとPLMは似ているようで違うものだ。PDMはエンジニアリングデータの「成果物管理」が目的だが、PLMはスペックマネジメントのような売れる製品スペックのような売れる製品スペックを管理することが目的だ。

        
②SCM(Supply Chain Management)との関係

        今まではERPやスケジューラーのパッケージを中心としたSCMの導入が盛んに行われてきた。目的は、組織間のデータを連携してサプライチェーン上をスムーズに情報交換することだった。しかし、SCMは在庫としての製品の部品の数量は管理できても、製品のスペック情報、マスター情報の管理はできない。製品のライフサイクルが短くなると、製品がどんどん変化して製品構成や部品が変わるため、マスター情報が荒れてしまい、SCM上の情報と実際のモノとが一致しないという問題が多発するようになった。

        SCMがトランザクションデータ(処理情報)を扱うシステムとすると、その上流のマスター情報をマネジメントするPLMを設備する必要性が高くなる。そのため、ERP構築以降この2~3年で急速にPLMが普及してきたという背景がある。このように、下流域のSCMから端を発したマスター情報整備が進むにつれて、PLMが注目されている。

        
③CRM(Customer Relationship Management)との関係

        CRMは、顧客情報を管理するSFA(セールス・フォース・オートメーション)と連動しながら、営業のプロセスを管理する機能を持つ。しかし、CRMも完成品をどこにどれくらい売ったのか、過去にどの製品が顧客に売れたのかなど、個数と顧客情報との連携はできるものの、個別顧客との関係でどのような製品の仕様(スペック)をつくったらいいかという製品そのものの情報管理はできない。今営業にとって重要なのは、顧客がどんな製品仕様(スペック)を望んでいるか、あるいは曖昧かつ潜在的な顧客の要求仕様に対して自社の基本仕様を提示しながら顧客要求を顕在化することだ。この顕在化に失敗すると、後になって何度も仕様変更が発生し、コスト増・納期遅れが頻発してしまう。そもそもCRMは、セールスマンや顧客の基本情報を扱うものであり、製品のスペック情報を扱う物ではない。

        PLMとCRMを連携させて、コンフィグレーション(仕様選択)により製品のスペックを電子的に確定させていく。顧客の欲しいスペックを作りこんで管理するのだ。

        
④CSM(Component&Supplier Management)との関係

        部品と調達先の管理の仕組みはこれまでも存在していたが、市販品や汎用品が中心で、過去の取引情報を管理するのがCSMの目的だった。しかし日本の製品の60~70%が加工品であるため、構想設計段階ではサプライヤーも最終的な部品の構造や原価をなかなか決めることができない。一方、コスト競争力向上のためには上流段階でコストやスペックを確定させる必要がある。そこで、モノづくりの上流でサプライヤーとスペック交換を行い、部品情報の安定化を図る。このように、PLMはPDMのエンジニアリングデータや成果物管理に含まれている製品スペックや製品構成データを活用するという方向もあれば、SCMのトランザクションデータに対するマスターデータという位置づけにもなる。PLMとCRMは顧客要求との連携、PLMとCSMはサプライヤーとのスペック交換に位置づけられる。これがPLMの各ソリューションに対する位置関係だ。

 
 
     
 
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